婚活バスのルール上、トラブルを避けるために、カップル成立前の連絡先交換は禁止されている。それでも何かと場を仕切りたがるA山(肥満体型)は、「何かの縁だしライン交換しましょうよ」と提案してきた。気が進まない表情を浮かべていたB山(ハイブランド)も、本心はノリノリのようで、ナガタさん(嘔吐) にスマホを向けている。
別にいい人ぶるわけではないが、ルールを破るのはどうかと思うし(万が一トラブルが発生した時、ルールを破っている手前助けを求められないかもしれない)、そもそも安易に連絡先を交換したくない。そう思っていると……
「じゃあホピ沢さん、ライン教えてください」←ナガタさん(嘔吐)
……なんとナガタさんに、指名されたのだ。
「先ほどお世話になった時(車内で嘔吐した時のことだと思われる)、ホピ沢さんのおかげでとても助けられたので……」←ナガタさん(嘔吐)
「え……」
「もしよければ、交換しましょうよ」←ナガタさん(嘔吐)
……よろこんで!!!!
さっきまでは、"別にいい人ぶるわけではないが、ルールを破るのはどうかと思うし……"などと言っていたが、本当に申し訳ない。僕は突然ナガタさん(嘔吐) に指名された瞬間、ルール?糞食らえ!破って上等!と思ってしまった。
要は……舞い上がってしまったのだ。
考えてもみてほしい。40過ぎた冴えないチビの中年男性が、可愛くて美人の女性に連絡先を聞かれたのだ。ナガタさん(嘔吐)が気になっているとか、ナガタさん(嘔吐)とどうこうなりたいとか、そういう気持ちは今のところない。
しかし好意があるとかそういうことはさておき、単純に美人の女性から連絡先を聞かれて、悪い気はしない。むしろ女性とあまり縁がない僕には刺激が強過ぎて、もうなんかくらくらしたし、鼻の下がだらしなく伸び切っていたと思う。
「ちょっと待ってくださいよ〜。なんでホピ沢さん限定?笑 皆で交換しましょうよ〜」←A山(肥満体型)
「そうですよ〜仲間はずれみたいじゃないですか」←B山(ハイブランド)
A山(肥満体型)とB山(ハイブランド) が冗談っぽくナガタさん(嘔吐)に意見を申していたが、その表情は面白くなさそうだった。面白くなさそうというか、僕を見る視線にはあからさまに「なんでこいつが?」と書いていた。まあ2人に無言の指摘をされずとも、僕自身も「なんで僕が?」と思う。
「あ……じゃあ私もホピ沢さんと連絡先交換したいです。さっきサービスエリアでちいかわのお話したので……ぬい活とかについて語りたいです」←ムラマツさん(ぬい活)
「……それじゃあ私もいいですか?バスの中でわんちゃんのことたくさん話せて楽しかったので」←ミヤギさん(沖縄出身)
A山(肥満体型)とB山(ハイブランド) から圧力を感じていると、なんとムラマツさん(ぬい活)とミヤギさん(沖縄出身)が、控えめに僕を指名してきた。
「え、だからなんでホピ沢さん限定?笑 ホピ沢さん、なんか女性達に魔術とか使ってるんすか?笑」←A山(肥満体型)
どうしよう……これまで縁遠かったモテ期とやらが到来したのかもしれない。
