「ホピ沢さんは、本当に優柔不断ですね」
大きくため息を吐いたDさんは、心底呆れ果てたような表情をしていた。いや呆れ果てたのではなく、愛想を尽かしたのだろうか。"マジでこいつ何やらしてもダメなヤツ"という、軽蔑にも似た眼差しで僕を見ていた。
「女性にここまで言わせるのは、さすがにマナー違反ですよ」
Dさんの突き放したような口調に、僕は狼狽えた。理由にもよるが、いずれにしろ公共の場で他人に咎められるのは、気分がいいものではない。しかもここは、酒場。だが、ふと思い直す。女性にここまで言わせるのはマナー違反?マナー違反ってなんだ?僕がDに好意を持っていないことがマナー違反なのか?男性に言わせることはマナー違反ではないのか?
「こういう時デキる男性は、"好意がある"と言うものですよ。女性に恥をかかせないのが、大人の男性です」
「……」
「失礼ですがホピ沢さんは、恋愛経験少なそうですね」
おい、D!失礼だろ!だがそうだよ!お前の言う通りだよ!確かに僕は恋愛経験少ないよ!だけどだからなんなんだよ!デキる男?例え好意がなくても、"好意がある"というのがデキる男?それは違うだろ!好意がないのに"好意がある"って言ってどうすんだよ!変な感じになるだろ!
「失礼ですがDさんは……思い通りにならないと不機嫌になるタイプですよね……」
売り言葉に買い言葉。何を言われても流そうと決めていたはずなのに、ついうっかり……言ってしまった。しかし一度口を突いて出た言葉は、取り消せない。完全にDさんを怒らせただろうな……と、僕はDさんを見ることができなかった。
「あはは、それが女性ってもんですよ!思い通りにいかないと、不機嫌になるのが女性です!」
しかしDさんは、笑っていた。そして「やっとわかったか〜」と馴れ馴れしく言い、僕の肩を小突いてくる。実際は爆笑という感じではなく、僕を小馬鹿にしているような笑みだったが、とりあえず表面上は怒ってはいなかった。表面上は。
しかしほっと胸を撫で下ろしたのも、束の間。しばしの沈黙の後、Dさんは恐怖の発言をしてきた。