結婚相談所D社から帰宅した僕は、勢いに任せて電話で次回予約をキャンセルした。当初は、受付の方に用件を言ってあっさりキャンセルしようと考えていた。担当してくださった内田(仮名)さんと、話をしたくなかったからだ。しかし受付の方が「担当者に代わります」と、使命感に駆られるように内田(仮名)さんに繋いでくれたおかげで、案の定内田(仮名)さんから「何故頑張れないんですか？」としつこく粘られた。
情けないことだが、僕は押しに弱く流されやすいタイプである。おそらく内田(仮名)さんは、僕の性質を見抜いていたのだろう。本当に強烈でしぶとい営業魂とマシンガントークで、僕をあの手のこの手で入会させようとしてきた。
「特にこれといった理由はありませんが、率直に内田(仮名)さんとは一緒に頑張れないと思いました。僕のためにお時間を割いてくださり大変感謝しておりますが、ご縁を感じませんでした。申し訳ありません。今回は入会を辞退させていただきます」
こういう人にははっきり言わねば伝わらないと思い、僕は心を鬼にしてきっぱりと言った。するとそれまでの態度が一変。まるで豹変したかのように、内田(仮名)さんの口調が冷えた。
「ここで一緒に頑張れない方は、他のどこでも頑張れないと思います」
辛辣だった。そして、「では失礼します」とぶっきらぼうに言って、僕が電話を切る前に内田(仮名)さんは電話を切った。相手はスマホではなく電話機。内田(仮名)さんは乱暴に電話を切ったのか、ガチャンと無造作に受話器を置く音がダイレクトに僕の鼓膜に響いた。仕方ないなと自分に言い聞かせる。結果的にお断りできたのでよかったが、最後の最後でなんとも言えない対応に微妙な気持ちになった。
今回A社とD社の二つの結婚相談所に話を聞きに行ったが、他の結婚相談所は別として、少なくともこの二社と僕の相性は良くなかった。彼らも仕事だということはわかる。だけど露骨な営業魂と商売魂を見せつけられると、なんか違うなと思ってしまうのだ。
どうして一般的な40代の人は既に結婚して子供がいる人もいるに、僕は結婚できないのだろう。
自分で言うのもアレだが、僕は学生時代、真面目な方だったと思う。それなりに勉強し、それなりに名の知れた大学、大学院に進学した。勤め先も、それなりに名の知れた会社だ。学歴も職歴も決して悪くないと思う。ギャンブルや借金とも無縁だし、ましてや人に迷惑をかけるようなこともしていない。
それなのに。
頑張って勉強して努力してきても、それが一切結びつかないこともあるのだ。その現実を改めて実感し、僕はどうしようもなく泣いてしまった。
一ヶ月後には結婚相談所に入会しているかもしれないが、とりあえず今回は、結婚相談所の入会は見送ることにした。こんなことで本当に僕は結婚できるのか、と不安ではある。しかし、ろくに決心もつかなく気が進まないのに、高額な料金を支払うのはもったいないし、僕にそんな余裕はない。
本当に自分が情けなくて、つらい。
