サリーさんは最大限に、僕を褒めてくれたつもりなのだろう。人様の前で絶対に言うべきことではない胸の内を曝け出してでも、僕を評価してくれたことは感謝する。しかし……背が低い僕にとっては、あまりに辛辣な言葉のオンパレードだった。背が低い男性は卑屈で性格が悪い……のか。お酒に呑まれたサリーさんに対して、怒りや苛立ちは沸かない。しかし酔っ払ったサリーさんから放たれる悪口は、確かに僕に突き刺さった。
早く家に帰りたい。
真っ先に僕の心に浮かんだのは、負の感情ではなく帰宅願望だった。「まだ飲みましょう」とテーブルにへばりつくサリーさんを宥めながら、半ば強引にお開きにする。店員さんから伝票をもらうと、サリーさんはあっけらかんと言った。
「今日はごちそうさまでした」
……サリー、おまえもか。
タケウチさんに続いてサリーさんも、最初から僕が払うものだという態度を見せた。確かに僕は全額支払うつもりだったが、普通は!普通は、お会計の相談や財布を出す素振りをするものではないのか?例え支払う意思がなくても!酔っ払っているサリーさんの意識がどこまではっきりしているのかわからなかったが、この時は素面を疑った。
しかしサリーさんは、千鳥足なのだ。
「楽しかったですね〜」
「サリーさん、大丈夫ですか?」
新大久保駅までの道中、サリーさんはどこかに飛んでいきそうな足取りで、ふわふわと歩いていた。いや歩いていると言っても、酔っ払いの歩幅は当てにならない。通行人とぶつかりそうになりながら、サリーさんはよろよろしていた。後々誤解を招きたくない僕は、サリーさんには触れないように、彼女をガードしながら付き添った。
不思議だった。今日初めて会った人の介抱をしている。僕は何をやっているんだろう。
そう思った矢先、サリーさんに異変を感じた。
「……ちょっと気持ち悪いです」
サリーさんは、その場にしゃがみ込んだ。